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新企画【座談会】地域で暮らしを支える「地域包括ケア」とは?
地域で暮らしを支える「地域包括ケア」とは?
—— 病院・在宅・行政・教育、それぞれの立場から考える地域包括ケアシステムの今と未来
【参加者】
- 司会:白十字訪問看護ステーション 管理者 服部 絵美さん(短6)
- ウィル訪問看護ステーション がん看護CNS 風間 郁子さん(短9)
- 慶應義塾大学病院 2階クラスター外来 透析看護CN 山口 伸子さん(89)
- 横浜市 健康福祉局 医療援助課 担当係長 保健師 朝倉 崇さん(学5)
- 慶應義塾大学看護医療学部 在宅看護分野 専任講師(博士)山本 なつ紀さん(学6)
1. それぞれの仕事や役割について
服部(司会):
最初に、皆さんの現在のお仕事と、地域での役割について教えていただけますか?
朝倉:
横浜市健康福祉局 医療援助課の朝倉です。
医療費助成などの事務を担う一方で、データを活用して介護が必要になる前にアプローチする事業を企画しています。健診データや医療・介護レセプトを用いてハイリスクの方を把握し、プッシュ型で支援につなげる取り組みです。
もう一つは、小児慢性特定疾病のお子さんとご家族の支援事業です。制度と現場のあいだで、どうすれば途切れなく支えられるかを日々考えています。
風間:
ウィル訪問看護ステーション(江戸川区)で、がん看護CNSとして働いています。
ふだんは訪問看護師として利用者さんのご自宅に伺うほか、社内のLST(サポートチーム)の一員として、全国30カ所ほどある事業所全体の看護の質向上に取り組んでいます。
学会や研究会での活動も続けながら、在宅がん看護の専門性をどうチームに還元するかを模索しているところです。
山口:
慶應義塾大学病院 2階クラスター外来で働いている透析看護認定看護師の山口です。
これまで透析センターを中心に、透析導入・維持、そして、透析をするのか・しないのかの意思決定支援に関わってきました。
高齢化や認知症の増加もあり、地域と相談しながらどこまで、どう支えるかを病院外来の場で決めていく難しさと必要性を強く感じています。
山本:
看護医療学部 在宅看護分野の山本です。
1年生の早い段階から、地域包括ケア入門という演習科目で、学生を地域の居場所・高齢者施設・小規模な企業などにお連れし、地域で暮らす人としての関わりを大事にしています。
2年生以降は講義、4年生では在宅看護実習を通して、正解が一つではない世界で考え続ける力を育てたいと思いながら教育に携わっています。
服部:
改めまして、白十字訪問看護ステーションで管理者をしている服部です。
慶應病院で勤務した後、大学に編入し、その途中で訪問看護と出会いました。2009年から管理者をしています。
訪問看護はどうしても、重度化してから、困りごとが大きくなってからつながることが多いです。その手前の予防の段階から地域住民と関わりたいと考え、団地の中に暮らしの保健室を開設しました。
また、点になりがちな訪問を線にしていく場として、看護小規模多機能型居宅介護も運営し、半径3kmくらいの範囲で地域密着型の支援を続けています。
2. 病院・在宅・行政の連携で感じるモヤモヤとは?
服部(司会):
地域包括ケアというテーマの中で、今日は移行と連携をキーワードに、現場の難しさやうまくいった事例をお聞きしたいです。
まず、病院から地域につなぐ場面で、どんな壁を感じますか?
風間:
病院の緩和ケアチームにいた頃は、地域につなぐ側でした。
その時から、訪問看護師さんやケアマネさんたちから、
「誰に何を聞けばいいのか分からない」「情報が分断されている」
という声をよく聞きました。
実際に訪問看護師になってみると、指示書だけでは読み解けないことが本当に多いんです。
レジメンが書いていなかったり、ほとんど空欄に近い指示書もあって、「この情報だけで安全に動けるのか?」という不安があります。
山口:
病院側から見ても、「どこまで、何を、どう書いたら訪問看護さんの役に立つのか?」が見えづらいという課題があります。
主治医の先生方はすごく忙しくて、誰にどう相談してよいか戸惑っている部分もあります。
だからこそ、「ここまではきちんと書いてください」「この部分は看護師に委ねてください」といったニーズを、訪問側から具体的に教えてもらえると助かりますね。
朝倉:
行政として医療・介護連携の場をつくることもありますが、参加されるのはソーシャルワーカーさんが中心で、看護師同士の声が見えにくい面もあります。
新規で訪問看護を導入する時、ケアマネさん・病院・訪問看護がどんな流れで情報をやり取りしているのか、改めて伺いたいなと思っていました。
風間:
ステーションによって違うと思いますが、うちは医療サイドとは直接やり取りすることを基本にしています。
ただし、ケアマネさんを飛び越えることはせず、必ず一度ケアマネさんに相談したうえで、医療的な部分は看護師が病院と直接つなぐ、という役割分担です。
誰に何を聞けばいいのかがクリアになると、ぐるぐると同じところを回る感じが減るように思います。
3. 情報共有と「人生会議(ACP)」の課題
服部(司会):
透析の導入など、人生の大きな選択に関わる場面では、地域と病院のやり取りもより難しくなりますよね。
山口:
そうですね。
透析中止や治療方針の変更など、ACP(人生会議)が必要な場面でも、地域でどんな話し合いがされてきたのかが病院側に十分伝わっていないことがあります。
「うち(地域)ではそんな話、全く聞いていません」と言われることもあれば、
「だいぶ前から話していました」というケースもあります。
本当は、生活を見ている地域のチームが一番、その人らしさを知っているはず。
その情報を、どう病院側にキャッチしてもらうかが課題だと感じています。
風間:
地域の縁側のような居場所で、人生会議の講座をしたことがあるんですが、来てくださるのはまだ元気な方が多いんです。
エンディングノートを書いても、いざという時にそれを知っている人がいないという問題もあります。
だからこそ、書いて終わりではなく
- 家族と共有する
- どこに保管しているかを周囲が把握する
といった仕組みづくりも、地域の課題だなと感じます。
朝倉:
横浜市では、エンディングノートに加えて、情報登録事業を始める予定です。
救急搬送された際に、あらかじめ行政に登録しておいた連絡先や希望が、病院に届けられる仕組みです。
高齢者の単身・高齢夫婦世帯が増えるなかで、誰にも知られないまま意思が埋もれてしまう課題に、少しでも対応していきたいと思っています。
山本:
市民講座などでACPを扱うと、書くことで初めて「自分はこんなことを大事にしていたんだ」と気づく方も多いです。
ご夫婦で来られていて、「お父さん、そんなこと考えてたの?」という会話が生まれる場面もありました。
言葉にしてみる・大切な人に伝えてみること自体が、看護や地域の支えにつながるのだと改めて感じます。
4. 人材不足とICT・AIの活用
服部(司会):
どの職種でも「人が足りない」「時間が足りない」という声を聞きます。現場での工夫や、ICT・AIの活用についてはいかがでしょうか?
朝倉:
介護人材の不足は、行政としても大きな課題です。
処遇改善など金銭的インセンティブだけでは限界が見えてきていて、介護ロボットの導入や、AIケアプランのモデル事業なども始めています。
ただ、人にしかできないコアな部分をどう守りながら効率化していくかが、今後の鍵になると感じています。
風間:
看護現場でも、記録やカンファレンスの議事録作成などに音声入力やAI要約を活用し始めています。
利用者さんと向き合う時間を守るためのICTであれば、スタッフも納得して使ってくれる印象です。
一方で、MCSなどの情報共有ツールが二重入力になってしまうと、負担ばかり増えてしまうので、いかにシステム同士を連携させるかが、これからの課題だと思います。
山口:
病院でも、心理的安全性を高める取り組みや、働き続けられるための制度づくりが進んでいますが、やはり記録の負担は大きいです。
AIをうまく使いながら、本来の看護に力を注げるようにしていくことが、人材定着にもつながる気がしますね。
5. 新人育成と、学生へのメッセージ
服部(司会):
新人看護師の育成や、学生さんへの教育についてもお話を伺えればと思います。
風間:
うちのステーションでも新卒を採用していますが、「1年かけて一人立ちすればいい」と考えています。技術よりもまずアセスメント力。
「この人の状態像をどう捉えるか」「だからどんなケアが必要か」を一緒に訪問しながら学んでもらっています。
注射などの手技は、地域の病院と連携して新人教育プログラムに参加させてもらうこともあります。
1ステーションだけで育てるのではなく、地域で新人を育てる発想が大事だと感じています。
山本:
在宅実習に出ると、学生は「難しそう」「自分に務まるのか?」と不安になることが多いです。
でも今日のお話にあったように、
- まずは「分からない」と言えること
- 質問しながら関係をつくっていくこと
が大事だというメッセージを、そのまま学生にも伝えたいと思いました。
看護師の資格は、本当に活躍の場が広い。病院・在宅・行政・教育・企業…いろんなモデルケースを紹介しながら、変化する社会の中でも、自分らしくキャリアを紡いでいける人材を育てていきたいです。
6. 座談会を終えて 〜 一人ひとりの暮らしを支えるために〜
朝倉:
2025年問題を越え、次は2040年を見据えた議論が始まっています。
人材が限られる中で、今の医療・介護制度をどう維持し、どう変えていくか?
人がやるべきことと、効率化できることを見極めながら、地域で支え続けていきたいと思います。
風間:
在宅は、どうしても感情的にも動かされやすい現場です。
だからこそ、情熱と同じくらい効率化や役割の整理も意識しないと、地域全体として回らなくなってしまう…
今日あらためて、顔を合わせて話すことの大切さと、そこから生まれる温度感の共有に価値があると実感しました。
山口:
病院で働く看護師として、在宅のチームともっとフラットにつながりたいと感じました。
患者さんはあくまで生活者であり、病院はその一部です。
多職種・多領域の人たちとの対話を重ねながら、自分自身の視野も広げていきたいです。
山本:
100人を超える学生の教育に携わる身として、看護という資格の持つ可能性の大きさを、改めて感じました。
「一度離れても、また戻ってこられる」「場所を変えながらキャリアを積んでいける」
そんな柔軟な生き方ができるよう、これからもさまざまな実践の場を学生に紹介していきたいです。
服部(司会):
私自身、一人の住民としても、この地域で暮らし続けていきたいと思っています。
制度やサービスだけでは支えきれない部分を、お互いさまの関係で補い合える地域を、看護の視点から少しずつ作っていけたらと感じました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
