インタビュー
川添 高志さん
(かわぞえ たかし)
インタビュー日時:2009年04月29日
卒業:2005年看護医療学部卒
所属:ケアプロ株式会社
肩書:社長
経歴
1982年生まれ。神奈川県出身。
慶應義塾大学看護医療学部一期生。看護師・保健師。
在学中の患者さんとの出会いから予防医療と在宅医療に興味を持つ。また現日本看護協会会長の久常氏の下で医療政策の学生組織を立ち上げる。米国の医療機関 Mayo clinic での2度の研修で、医療経営の重要性を認識する。
在学中より経営コンサルティング会社に従事。その後、東京大学病院(糖代謝/循環器/腎臓内分泌)を経て、起業する。
ケアプロの事業プラン「ワンコイン健診」は、東京大学医療政策人材養成講座で優秀成果物「特賞」、慶應義塾大学SEA(ビジネスプランコンテスト) で"The best new markets award"を受賞し、現在、NEC社会起業塾にて支援を受ける。
ケアプロ株式会社ホームページ:http://carepro.co.jp/
起業の夢
高校3年の時にボランティアで老人ホームに行き、経営状況が悪く、人が十分雇えず、20人の入浴介助を2人のスタッフで行っているなど残酷な状況を目のあたりにしました。少子高齢化によって、今後ますます医療業界が重要になる中で、状況を改善するためには人を多く雇うことや、一人一人のスタッフレベルでサービスの質をあげる必要があり、経営面で改善の余地があると思いました。
小さい頃から社会に対して大きな貢献をしたい、大きな影響を与えたいという気持ちは持っていました。そこで、組織を大きく動かせる立ち位置にある経営者になり、世の中を変えたいと思いました。そのような折に慶応義塾大学看護医療学部が、ヘルスケアのリーダーを育てるということで、臨床はもちろんのこと、経営に携わる人も育てるということを知り、入学を決めました。
大学時代は起業への準備期間
大学時代は医療に対するニーズを調査すること、事業を起こすために必要なノウハウ(医療や経営の知識・経営の技術の習得、人脈づくり、資金集め etc.)を身につけたいと考えました。看護の実習はもちろんのこと、その他にも訪問看護ステーションでインターンシップに行ったり、経営コンサルタント会社で働き、医療の課題について勉強し、どのようなことを解決するニーズがあるのか、そのニーズを押さえた上で、どうしていったらいいかなどを考えていきました。
大学卒業後
在学中、アメリカ合衆国のMayo Clinicに研修に行った際、「ミニッツクリニック」というクリニックを見学する機会がありました。このクリニックは、ナースプラクティショナーが開業しているクリニックで、インフルエンザのワクチンや、アレルギーに対する処方、健康診断などプライマリーヘルスケアを行っており、チェーン展開されているものでした。このようなモデルが日本でも実現できたら、医師不足も緩和され、保険証がなくても受けられて良いのではないかと思いました。現在、経営しているケアプロの構想は、このようなクリニックからもヒントをもらいました。
卒業1年後、経営のコンサルタント会社はやめ、東大病院の糖尿病の病棟で働きました。病棟での勤務を通して、医療知識を蓄え、一方で健康診断の制度上の問題点などを患者さんたちにヒアリングしました。患者さんたちからは、健康診断に行く機会がない、行くのも面倒だし、時間もかかる、お金かかる、もっと手軽なものがあれば使いたいという声が多くありました。
事業計画は、東京大学病院で働きながら東京大学の医療政策人材育成講座に参加し練り上げ、医療政策的な意義が非常にある事業だと評価も頂きました。また、慶應のビジネスプランコンテストにも出て、経済的にも、ビジネス的にも評価をしていただきました。
これからは予防医療、在宅医療が重要
とにかく糖尿病とか高脂血症など生活習慣病は自覚症状がないうちに進みますので、医療者が働きかけて予防が必要だと認識させなければいけません。現在、フリーターが増えていますが、フリーターのような人たちは糖尿病になって透析が必要になると、年間600万くらいの医療費がかかり、それを税金でまかなわなければなりません。私たちの税金が使われているわけで、そのようところにお金を使うならば、もっと早めに予防の取り組みにお金を使った方がいいと思います。
在宅医療については、現在の日本の病院ではその人らしく死ぬことが難しいことだと思います。病棟の雑多な状況下で亡くなり、亡くなるとすぐに霊安室に移動する、このような状況が普通にあります。一方で、在宅ホスピスの実習を鹿児島のホスピスで行った時は、その人の死にたいように死ねる、家族もその人が死ぬ寸前まで、いろいろとコミュニケーションをとることができ、死を受容していくというケースに出会いました。医療者がもっと本人が死にたいように死ぬことができる環境を作っていかなければならないと思います。
事業の発展
(株)ケアプロ(ホームページ:http://carepro.co.jp/)が提供しているワンコイン健診のコンセプトは「ちょっと立ち寄り、ちゃんと健康」です。初めは駅の中で事業を展開したいと思っていました。現在は、この事業に関しては3店舗くらいに留め、あとは出張形式で行いたいと考えています。フィットネスクラブ、ドラッグストア、ショッピングセンターと、大手と契約すれば、500店舗くらいになります。そして、会員数が増えて数万人、数十万人になったら、検査結果をパソコンで見ることのできるシステムを利用して、お客さまの血液検査の結果に合わせて広告コンテンツを掲載していく事業を展開したいと考えています。例えば、コレステロールが高いという結果が出たお客様がいたとしたら、最寄ではこの医療機関がお勧めです、このフィットネスクラブであれば今入会が割引です、また、糖尿病でも入れる保険はこれがありますなどと、情報を提供し、これらの広告によって収入を得るというビジネスモデルを考えています。
また、海外の知り合いから連絡をもらっており、NYでやりたいとか、中国でやりたいという話があります。海外にもこのようなモデルはありませんので、海外展開できるかもしれません。拠点になる空港で、感染症などの検疫の役割を果たすこともでき、忙しいビジネスマンの健康管理にも役立てることも考えると、可能性は広がります。
最近、慈善事業として、最近「ワンコインドクター相談」を始めました。保険証がなくても受けられます。家族のことや友達のことなどでも自由に話すことができます。予約制で一人当たり10分間で、費用は500円。医師はボランティアで行ってくれています。
7月には、「ティーンズルーム」という名称で、婦人科の医師らと、原宿で10代向けの事業を始めます。ビジネスとしては成り立たないため、スポンサーを集め、助成金の申請もしているところです。以上のように、同時進行で色々な計画を進めています。
良いネットワークを作っていく
事業を通して、健康関連の企業と関わる機会が多いですが、質の悪い企業もたくさんあります。そのため、どういったところと手を組んでいくかが重要です。あやしい企業に注意する必要もありますし、あやしい企業にサービスのノウハウを盗まれてもいけません。
良い企業と付き合って、良い情報をお客さんに情報提供していく、本当に健康になってもらって、しかもリピートして使ってもらえる、このような世の中を作っていきたいです。本当に健康になるためには医療機関だけではだめで、食事・運動など色々な分野との連携、アプローチで、改善していかなければいけません。いい病院を100、200個つくるよりは、ヘルシーなレストランをいっぱい作った方が効果的ではないでしょうか。そのように世の中を変えていきたいと思っています。
達成感
やはりケアプロを利用するお客さんたちが、こんなに手軽に利用できるサービスがあって、自分の健康をチェックできるサービスがあるのは、嬉しいですと言ってくれます。マスコミなどでも取り上げられ、社会的な評価を頂いています。また、ケアプロを応援してくれる医師や製薬会社や、協力者から頑張ってねと言ってもられることが嬉しく、非常にやりがいを感じます。
cureからcareへのパラダイムシフト
看護医療学部の1期生として、予防医療や在宅医療に力を入れ、「cure」から「care」へのパラダイムシフト、この概念を社会に浸透させていきたいと思っています。新しい市場を作るにはそれまでの制度的な問題や、全く新しいビジネスなので経営的に成り立つかこの2つ問題がありますが、信念を貫いてやっていきたいと思います。
cureからcareのパラダイムシフトは、慶応の看護医療学部ができたときの一番のキーメッセージです。学部長挨拶にも書いてありました。自分は、その言葉を知って、とても良いメッセージだと思いました。cureは条件としてやはりお金がかかります。careの方がかかりません。20世紀は経済が発展し、お金を出せば色々な技術によって病気を治すことができましたが、今はお金の成長は止まっています。一人一人が自分の健康について、治療やケアの選択について考えていかなければならないと思います。
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