インタビュー
和田 礼子さん
(わだ れいこ)
インタビュー日時:2011年08月14日
卒業:1976年厚生女子学院卒
所属:
肩書:JICA専門家
経歴
1976年厚生女子学院卒業(72回生)
慶応病院及び都内数か所の病院勤務を経験。
1982年以降、セネガル、バングラデシュ、マレーシア、モロッコなどの国で勤務。
2002年から現在まで、モロッコにて母子保健状況の改善を目的とした支援のため、JICA専門家として勤務。趣味:読書、旅行、ゴルフ(写真右端が和田さん)
学生時代と活動のきっかけ
学生時代はテニス部や公衆衛生学研究会に所属し忙しく活動していました。その後、慶應病院に就職、4年余り働いたのち、都内にある他の病院に勤務しました。そこで、同じ都内の病院でも治療や患者さんに対する対応が違うことを経験し、自分が知らないことが多くあることが恐ろしいと思うようになり、もっと外を見てみたいという思いから青年海外協力隊に参加してアフリカに行きました。しかし、言葉ができるわけでもなく、医療も日本で求められていることとは違うので、最初の派遣では勉強して帰ってきたという感じです。20代では、何かを変えるとか、人のために何かをするとかいうことが容易ではないことを実感しました。
現在の活動内容
現在は、国際協力機構(Japan International Cooperation Agency:JICA)の専門家としてモロッコで働いています。JICAには職員のほかに、青年海外協力隊員(シニア海外ボランティアを含む)というボランティア、専門の知識を持って技術支援などを行っている専門家などの職種で、途上国を中心に働いている人がたくさんいます。
モロッコでは、保健省の中にある母子保健を取り扱う部署に勤務しています。モロッコ人がどのような支援を日本に求めているか、日本はどのような支援をモロッコに提供できるかなどを調査し、その調整を行う役割を担っています。たとえば病院の建築をするような案件があれば、利用しやすい施設にするための情報や知識を提供したり、建設終了後はどのように活用されているかなどをフォローします。また、案件が決められた期日に提供できるよう現地と日本側との調整を行うこともあります。現在は、母子保健を中心にした活動を行っており、日本の母親学級のようなものをモロッコの全地域で広める活動をしています。
モロッコにおける母子保健の現状
モロッコにおける妊産婦死亡原因のトップは出血、二番目は子癇発作です。日本では子癇発作で亡くなるケースはほとんどありません。子癇発作の原因は妊娠後期におこる高血圧が原因と言われています。妊娠中に適切なフォローがされていれば、子癇発作による重篤な状況は回避可能です。それにも関わらずモロッコにおいて死亡原因の第二位を占めている理由は、妊娠中の検診が徹底されていなかったり、受診したくても病院までの交通手段が容易でない環境に住んでいたり、受診できても適切な治療が施されなかったりと様々な状況があります。それから、もう一つ大切なことは、妊婦さん自身が妊娠・出産に関する正しい知識を持っていないために、受診する必要性を認識していないという問題があることです。この背景には、義務教育が徹底されていないために識字率が低いなどという教育上の問題もあります。
母子保健へのアプローチ
現在私は、現地で実施されている母親学級等の保健教育強化のため、助産師や看護師などの指導者に対する支援を行っています。実際の教室運営に参加し、時には改善すべきことをアドバイスしますが、細かくチェックして評価するのは、私の仕事ではないと考えています。どうしたらよくなるかは、指導者自身が考えることなので、彼らが、より良い方法を考えられるようにアプローチすることを意識しています。
モロッコは地域によって貧富の差が激しいので、その地域の実情に合わせて今やること、今やったら効果があることを見極めて、それを、相手が望んでいることもしくは相手がそうなんだと思うように持っていくことが必要です。
例えば、交通手段のないところに住んでいる人に、分娩前の検診を毎月受けなさいということが本当にいいことなのかという問題もあります。それでも一度は受けて、自分に子癇発作のリスクはないのか、自分のまわりにそのようなリスクを持った人はいなかったかなどの情報を得ると、自分のリスクを考えられるようになり、最終的には妊娠もコントロールすることを望むようになります。また、妊娠した時にどうすればいいかということを考えられるようになります。妊婦さんが正しい知識を持つには、医療者は何をすべきかなどの動機づけをすることが大事です。
海外で活動するということ
語学の問題は大きいですが、言葉の壁はあまり感じていません。なぜなら、自分の伝えたいものがはっきりしていれば、どうやって相手に伝えるかについては、頭を使い、伝わるよう努力をすればいいと思うからです。自分に言いたいことがあれば、これは何と言うのだろう、と辞書を引くなりして、勉強していくしかないですよね。外国語を知ることで、その国の文化・習慣といったものをもっと深く理解できるようになります。その国の人々にあった活動・支援ができるようになるために、コツコツと学んでいくしかありません。
また、モロッコでは、個別専門家というかたちで派遣されていますので、決められている業務はすべて自分の責任で実施します。つまり、すべての成果は自分の行動の結果としてついてきます。また、その成果により私自身が評価されることになります。責任を持って仕事を行うためには、自分でできること、できないことを判断し、できると思うことをするよう心がけています。
自分がこれまでに得てきた知識や経験をシェアすることが、相手側の状況を改善することにつながり、それによって私自身が「役立っている」ということを感じることができ、それがやりがいにつながっています。いつも感じているのは教えられることが多いということです。いつまでも勉強させて貰っているというのでは困りますが、この年になっても経験しなかった事や知らなかった事に出会うことができます。
後輩へのメッセージ
若い時はやりたいことを何でもやったらいいと思います。人生は短いので、自分がやってみたいと思うことを躊躇しないでやるといいと思います。結果に対して自分なりに責任を持つことができれば、方向を変えることもあまり躊躇しない方がいいと思います。医療者として大学病院での経験はとても大切でかつ貴重とは思いますが、世界は広いですから、多くのことを見て、たくさんの経験をされてもいいかと思います。「なんとなく働く」のではなく、自分で責任をもって人生を選んでいくべきだと思いますね。
海外に目が向いている人は、語学をしっかり勉強した方がいいと思います。自分がある国で生きていくと決めたら、その国の言葉を学ぶのは義務に近いものがあると思います。
専門職である看護師は、常に自分が成長したいとか、いろいろなことを知りたい、という積極的な気持ちを持つべきだと思います。看護師はいろいろな年齢やバックグラウンドの人と接するので、医療はもちろん深く、それ以外にもたくさんの知識や経験を持つことによって、コミュニケーションの幅が広がると思います。より良いサービス提供者になるために、私たちは学び続ける必要があると感じています。
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